ぼんだ。
[#ここで字下げ終わり]
 と少ししゃがれたような声で歌いながら、どうでもいい事をしているように輪をつぼめていったりしていた。そんな他の女の子たちとは異《ちが》った、どこか冷淡なような感じのする、そのお竜ちゃんの様子が、どういうものか、妙に私の心をひいた。
 そんな夕方のように、他の女の子たちと一しょでないと、よくその生籬のところで、お竜ちゃんは私と二人きりで遊んで行くようになった。どんなきっかけからだったかは忘れた。私はしかし、女の子の好んでするような遊びは何も知らなかったし、又気まりを悪がってその真似《まね》さえしようともしなかったので、お竜ちゃんは私がぽかんと見ている前で、よく一人でお手玉を突いたり何かして遊んでいたが、それに倦《あ》きると、「又、こんどね」といって、お手玉を袂《たもと》に入れて帰って行った。そのあとで、私はいつも仲好く一しょに何もしないのでお竜ちゃんに嫌《きら》われはしまいかと思った。
 或る日、お竜ちゃんが真面目《まじめ》そうに私にいった。
「こんどみんなが蓮華《れんげ》の花をするとき、一しょにおはいりなさいな?」
 私は気まり悪そうに首をふった。
「だって、何も知らないんだもの。」
「誰にだってじき覚えられるわよ、ね、一しょにしない?」
「…………」私はとても駄目そうに、首をふっているきりだった。
 お竜ちゃんは、それにもかまわずに、その遊びの手つきをしながら、一人で「ひらいた、ひらいた、ひらいたと思ったら見るまにつぼんだ」と例の少ししゃがれたような声で歌い出していたが、私がそれに少しもついて行こうとしないで、ただ熱心に見つづけていると、ふいと彼女は冷淡な様子をして止《や》めてしまった。
 が、その次ぎにみんなが又その生籬のところに来て、蓮華の花をやり出したとき、私が八ツ手の葉かげから見ていても、お竜ちゃんはみんなと手をつなぎ合ったまま、ときどき私の方をちらっちらっと見るきりで、知らん顔をして、みんなと遊びを続けていた。それに私だって、たとえお竜ちゃんが私を仲間に誘いに来ても、なかなかその遊びに加わろうとはしなかったろうが、それにもかかわらず、仲間はずれにされたように、私はいかにも淋《さび》しい、うつけたような顔をして、みんなの遊んでいるのをぼんやりと見ていた。……
 そんなときの私の幼い顔つきを、――その後、大きくなってからも
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