そのまま別にして置いて、私は自分自身は古いので我慢して、それをいつもお竜ちゃんのする通りに花莚の隅《すみ》に並べたりしていた。……
 或る日、私がそうやって一人で無花果の木かげで余念なく遊んでいると、私の母が何処《どこ》からか、一人の見かけない女の子を連れて来た。
「この子と遊んでやって頂戴《ちょうだい》ね。」そう母はその子にいって、私の傍に彼女を置いていった。その女の子は、痩せた、顔色のわるい、しかしその黒味がちな目にしっとりと美しい艶《つや》をもった子だった。そうして粗末な、つぎはぎだらけな着物をきていた。私はまだその女の子とは言葉も交《か》わさないうちから、その子に対してはもう半分馬鹿にしたような態度をとり出した。その女の子は、そんな私をすこし持て余すようにしていたが、おとなしい性質と見え、何をしても私のするがままになっていた。しかし、同じままごと遊びをするにしても、お竜ちゃんだったら何をしても私の気に入るように出来たのに、その女の子と来たら、一所懸命に私のために何をやっても、私の気に入るようには出来なかった。
 私はお竜ちゃんのために大事にとってある上等な道具はその子と遊ぶときには使わない事にして、もうさんざ使い古した、そして半端《はんぱ》になったような、ちぐはぐな皿や茶碗《ちゃわん》でばかり遊んだ。そうして庭の隅っこに咲いている赤まんまの花なんぞも、私は立派なのは残しておいて、すこし萎《しお》れかけたようなのや、いじけたようなのばかり採って来た。
 それでもその女の子は始終おずおずしたような微笑を浮べながら、おとなしく私について遊んでいた。そうやって私は自分勝手なことばかりやって、まるで相手を眼中に置かぬようにして遊んでいるうちに、何か急にその女の子と遊ぶのが厭《いや》になると、ぷいと立って、その子を無花果の木の下に残したまま、自分だけ家のなかへはいってしまったりした。すると、その女の子は何もしないで、一人でいつまでも、花莚の上に坐ったまま、私を待っていた。縁側で縫物をしていた母は、それに気がつくと、何か小声で私を叱《しか》りながら、お菓子を紙につつんで、その女の子のところへ持っていってやりながら、「又遊びに来てね」といって、その女の子を帰らせた。私はそれを見ながら、知らん顔をして、一人で何か他の玩具を手にして遊んでいた。
 そのもう一人の少女は、たかちゃ
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