と下手糞《へたくそ》な日本語で、それだけ一層そう見えるのかも知れないが、私にかなり突慳貪《つっけんどん》な返事をした。が、私が食堂の中へはいって見るとそこにはまだ昨日と同じように三人の女が遅い朝飯に向っていた。私の隣りのテエブルの母娘《おやこ》づれらしい方は、ふたりとも昨日と同じの黒い衣服をつけて、若い女の方は相変らず綺麗に化粧をしていたが、もう一方の、私がきのうは十八九の少女だとばかり思い込んでいた金髪の娘の方は、今朝は光線の具合でか、まるで顔が皺《しわ》だらけで、三十をこしていそうに思えるくらいに老《ふ》けて見えた。私はおとついの窓の女も、ゆうべ廊下で出会った少女なのか年よりなのかわからない女も、ひょっとしたらこの女だったのかも知れないぞと思った。おまけに今朝は寝間着らしいものの上にけばけばしい緑色のガウンをだらしなく引っかけたまま、トオストを齧《かじ》りながら、栗色《くりいろ》の髪の若い女が何やらもの静かに話しかける度毎《たびごと》に、荒あらしくそちらへ体をねじ曲げては無雑作に答えるかと思うと、そのついでに私の方をも無遠慮に見つめたりした。私はなんだかいやな気がして、その女から眼
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