のの珍奇な植物がシンメトリックな構図で植わっている美しい庭園をもった、一つの洋館の前で、行きづまりになっていた。そうして少しがっかりして、息をはずませながら、その風変りな家に見とれている私たちの姿を目ざとく認めると、黄色に塗られた鉄柵《てっさく》ごしに、その庭園の中から一匹のシェパアドが又しても私たちに吠《ほ》え出した。私はあんまり犬が好きじゃないのだ。どうもこの辺もいいけれど、もの静かに散歩をするには、すこしシェパアドが多過ぎるようだ。
夕方、私たちは下町のユウハイムという古びた独乙《ドイツ》菓子屋の、奥まった大きなストーブに体を温めながら、ほっと一息ついていた。其処《そこ》には私たちの他に、もう一組、片隅《かたすみ》の長椅子に独乙人らしい一対の男女が並んで凭《よ》りかかりながら、そうしてときどきお互の顔をしげしげと見合いながら、無言のまんま菓子を突っついているきりだった。その店の奥がこんなにもひっそりとしているのに引きかえ、店先きは、入れ代り立ち代りせわしそうに這入《はい》ってきては、どっさり菓子を買って、それから再びせわしそうに出てゆく、大部分は外人の客たちで、目まぐるしいく
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