を与えているにちがいなかった。
そんな事で、去年はその家を借りるのを見あわせ、もう一方の、同じ林の中にあった、もっと小さな、もっときたない家で間に合わせた。
が、今年はその爺やの小屋も取壊したし、いろいろ手を入れたので幾らかさっぱりしたから、どうですかあれをお借りになっては、と不二男さんもすすめるので、私は性懲りもなくもう一遍その豆の花の咲く小家を借りようかと思い立って、再びそれを見に来たわけだった。――
その小家が急に若葉の中から私達に見え出して来たとき、何んだかすっかり様子が違っているのですぐにはそれと気づかなかった位であった。おやと思って、私はおもわずその場に足を駐《と》めた。
「あ、あの豆の棚をとってしまったの?」私はひどくびっくりしたように叫んだ。
「ええ、あれはあのままですと、どうもこちらの三枝《さいぐさ》さんのお家へあまり真向《まむき》になるので……」不二男さんはいかにも何んでもなさそうに説明した。「ちょっと斜めに道をつけてみましたが……」
「それは惜しいことをしちゃったなあ。」私はこんどはがっかりしたように言った。
そうして不二男さんと妻とがずんずんその新しい小
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