どこ》で何を渡世にしていたのかも分からん奴《やつ》が多いんだそうですよ」と私は言い畢《お》えた。「その孤独になって死んだ爺やだって、それから此処《ここ》んちのおとなしそうな爺やだって、この村へ渡って来るまでは何をしていたか誰も知らない。――そういう気心の知れないような他所者《よそもの》が多いから、村の人達だってあまり附き合いたがらないし、自然何処の別荘番も冬なんぞになるとわれわれの考えもつかないような孤独な暮らしをしているらしいな。そういう奴がみんないまの話の爺やみたいに、何処の誰ということもなしに死んで行くんだと思うと、ちょっと堪《たま》らない気がしますね。……」
蒙古《もうこ》でいつ完成するともつかない仕事をしている同じ画家の夫を持って、長い孤独な生活をしている深沢さんは、私の話を聞きながら、何度となく大きな目をみひらいては、深くうなずいていた。
夜はまだかなり寒かった。その晩はみんなで早くから床にはいることにした。
深沢さんと妻とが床を並べて寝た隣りの部屋からはやがて二人の寝息らしいものが聞えて来たが、私ひとりだけはどうしてだかなかなか寝つかれなかった。
言ってみれば、い
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