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(クリスマスよ、クリスマスよ、どうぞ彼等のところへは行かないで。
もう決して行かないで。そうして彼等を懲らしてやっておくれ。)
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 いま、そうやっていたいけな様子でお祈りを続けているそのポオランドの少女たちが、ふいと立ち上るなり、いまにもそんな悲しい叫びを発しそうな気がする。そう、この歌のレコオドはまあ何という偶然の運命から私の手もとに今あるのだろう。ちょっとその少女たちを私の家に連れていってそれを聴かせてやったら、まあ彼女たちはどんなに目を赫《かがや》かす事だろう……と、そんな事を考えているうちに、ふいと眼頭《めがしら》の熱くなりそうになった目をいそいで脇へ転じると、其処では、何か考え深そうな面持をしているドイツ人らしい両親の間に挟《はさ》まれた、まだ幼い、いかにも腕白者らしい子供が、彼から少し離れた席にいる同じような年頃の、しかし髪なぞをもう綺麗に分けている子供に向って、しきりに顔つきや手真似でからかいかけているのなどがひょいと目に映ったりした。私のすぐ前に並んで腰かけている津村君と神保君は、
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