ところへ指をつけながら、
「これは何だい?」と訊いてみた。
「それかい……」彼は少し顔を赧《あか》らめながら云った。「それは脊椎《せきつい》カリエスの痕《あと》なんだ」
「ちょっといじらせない?」
 そう云って、私は彼を裸かにさせたまま、その脊骨のへんな突起を、象牙《ぞうげ》でもいじるように、何度も撫《な》でてみた。彼は目をつぶりながら、なんだか擽《くすぐ》ったそうにしていた。

 翌日もまたどんよりと曇っていた。それでも私たちは出発した。そして再び海岸に沿うた小石の多い道を歩きだした。いくつか小さい村を通り過ぎた。だが、正午頃、それらの村の一つに近づこうとした時分になると、今にも雨が降って来そうな暗い空合になった。それに私たちはもう歩きつかれ、互にすこし不機嫌になっていた。私たちはその村へ入ったら、いつ頃乗合馬車がその村を通るかを、尋ねてみようと思っていた。
 その村へ入ろうとするところに、一つの小さな板橋がかかっていた。そしてその板橋の上には、五六人の村の娘たちが、めいめいに魚籠《びく》をさげながら、立ったままで、何かしゃべっていた。私たちが近づくのを見ると、彼女たちはしゃべるのを
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