ん》に、私は、その本通りの入口の、ちょうど宿屋の前あたりから、ぽうっと薄明《うすあか》るくなりだしている圏《わ》の中に、五六人、一かたまりになった人影《ひとかげ》がこちらを向いて歩いてくるのを認めた。私はどきっとして立ち止まった。どうやらそれが私の昔の女友達どもらしく見えたからだ。……私は急に、私のそばにいる彼女の腕をとって、向うから苦手の人が来るらしいので捕《つか》まると面倒《めんどう》くさいからと早口に言訣《いいわけ》しながら、いま来たばかりの水車場の方へ引っ返していった。そうして再びさっきの小川の縁《ふち》に並《なら》んで立ちながら、その人達がそのまま本通りの方から来るか、それとも宿屋の裏の坂を抜けてくるか、どっちから来るだろうと、両方の道へ注意を配っていた。……そしてそっちにばかり注意を奪《うば》われていたので、私たちは、私たちの背後の、いましがた其処から私たちの出てきたばかりの林の中から、数人のものが懐中電気《かいちゅうでんき》を照らしながら、出てくるのには全然気がつかずにいた。突然《とつぜん》私たちはその懐中電気のまぶしい光りを浴びせられた。私たちはびっくりしてその小川の縁
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