なったのにも拘《かかわ》らず、彼女の顔がなおも絶えず変化しているのに愕《おどろ》いた。或る時は、その顔はあんまり血色がよく、すべすべしているので、私のためらいがちな視線はいくどもその上で空滑《からすべ》りをしそうになった。また他の時はすこし疲《つか》れを帯びたように沈《しず》んで、不透明《ふとうめい》で、その皮膚《ひふ》の底の方にはなんだか菫色《すみれいろ》のようなものが漂っているように見えた。そうかと思うと、その皮膚がすっかり透明になり、ぽうっと内側から薔薇色《ばらいろ》を帯びているようなこともあった。ときどき以前に見たのと何処《どこ》か似たような顔をしていることもあった。が、その顔は決して二度と同じものであることはなかった。
或る日のこと、私は自分の「美しい村」のノオトとして悪戯《いたずら》半分に色鉛筆《いろえんぴつ》でもって丹念《たんねん》に描いた、その村の手製の地図を、彼女の前に拡《ひろ》げながら、その地図の上に万年筆で、まるで瑞西《スイス》あたりの田舎《いなか》にでもありそうな、小さな橋だの、ヴィラだの、落葉松《からまつ》の林だのを印《しる》しつけながら、彼女のために、私の
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