の灌木の茂みに代えられて、そうしていま私のぼんやり立っているこの小径《こみち》からその芝生を真白《まっしろ》い柵《さく》が鮮《あざ》やかに区限《くぎ》って。……そのように、すべてが変っていた。いま私にまざまざと蘇って来たところの、そう言うような、最初に私が彼女《かのじょ》に会った当時の彼女のういういしい面影《おもかげ》と、数カ月前、最後に会った時の、そしてその時から今だに私の眼先にちらついてならない彼女の冷やかな面影と、何と異って見えることか! 彼女の容貌《ようぼう》そのものがそんなにも変ったのか、それとも私の中にその幻像《イマアジュ》が変ったのか、私は知らない。しかし何もかも、恐《おそ》らく私自身も変ってしまったのだ。……
私はそのとき向うの方から何かを重そうに担《にな》いながら私の方に近づいてくる者があるのを認めた。それは羊歯《しだ》を背負っている宿の爺《じい》やであった。私はいつか彼の話していた羊歯のことを思い出した。
私は爺やの言うがままに、彼についてその庭の中へおずおずと這入《はい》って行った。そうして爺やが庭の一隅にその羊歯を植えつけている間、私は黙ってヴェランダの床板
前へ
次へ
全100ページ中54ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング