きげん》とを見抜《みぬ》いた。
 それから数日後の或る朝だった。だんだんに夏らしい色を帯び出して来た美しい空が、私にだけ、突然物悲しく閉《とざ》されてしまったように見えた。毎朝のようにそれに沿うて歩きながら、しかし、よく注意して見ようとはしないでいた野薔薇の白い小さな花が、いつの間にやら殆ど全部|蝕《むし》ばまれて、それに黄褐色《おうかっしょく》のきたならしい斑点《はんてん》がどっさり出来てしまっていることに、その朝、私は始めて気がついたのだった。

     ※[#アステリズム、1−12−94]

 ……数年前までは半分|壊《こわ》れかかった水車がごとごと音を立てながら廻《まわ》っていた小さな流れのほとりには、その大抵《たいてい》が三四十年前に外人の建てたと言われる古いバンガロオが雑木林《ぞうきばやし》の間に立ちならんでいたが、そこいらの小径《こみち》はそれが行きづまりなのか、通り抜けられるのか、ちょっと区別のつかないほど、ややっこしかったので、この村へ最初にやって来たばかりの時分には、私はひとりで散歩をする時などは本当にまごまごしてしまうのだった。確かに抜け道らしいんだが、その小径
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