程《ほど》遠くの、真っ白な、小さな橋をはじめて見でもするように見入っていた。それは六月の半ば頃《ころ》、私が峠《とうげ》から一緒《いっしょ》に下りてきた二人の子供たちと別れた、あの印象の深い小さな橋であった。――私は、彼女がしゃがみながら、パレットへ絵具をなすりつけ出すのを見ると、彼女の仕事を妨《さまた》げることを恐《おそ》れて、其処《そこ》に彼女をひとり残したまま、その渓流に沿うた小径をぶらぶら上流の方へと歩いて行った。しかし私は絶えず私の背後に残してきた彼女にばかり気をとられていたので、私の行く手の小径の曲り角の向うに、一つの小さな灌木が、まるで私を待ち伏《ぶ》せてでもいたように隠《かく》れていたのに少しも気づかずに、その曲り角を無雑作《むぞうさ》に曲ろうとした瞬間、私はその灌木の枝に私のジャケツを引っかけて、思わずそこに足を止めた。見ると、それは一本の花を失った野薔薇だった。私はやっとのことで、その鋭《するど》い棘《とげ》から私のジャケツをはずしながら、私はあらためてその花のない野薔薇を眺めだした。それが白い小さな花を一ぱいつけていた頃には、あんなにも私がそれで楽しんでいた癖に、それらの花がひとつ残らず何処かに立ち去ってしまった今は、そんな灌木のあることにすら全然気づこうとしなかった私に対して、それが精一杯《せいいっぱい》の復讐《ふくしゅう》をしようとして、そんな風に私のジャケツを噛《か》み破ったかのようにさえ私には思えた。……そういう花のすっかり無くなった野薔薇をしばらく前にしながら、私はいつか知らず識《し》らずに、それらの白い小さな花のように何処へともなく私から去っていった少女たちのことを思い出していた。……この頃、ともすると、一人の新しい少女のために、そんな昔《むかし》の少女たちのことを忘れがちであったが、そう言えば、彼女たちがこの村においおいとやって来る時期ももう間ぢかに迫《せま》っているのだ。彼女たちが来ないうちに私はこの村をさっと立ち去ってしまった方がいい。そうしなくっちゃいけない。――そう自分で自分に言って聞かせるようにしながら、その一方ではまた、この頃やっと自分の手に這入《はい》りかけている新しい幸福を、そうあっさりと見棄《みす》てて行けるだろうかどうかと疑っていた。そうして私は自分の気持をそのどちらにも片づけることが出来ずに、自分で自分を持て
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