よ》み了《お》えてしまうつもりだった。妻を先きに寝かせて、夜遅くまで一人でそれを読んでいた。――フリイドリッヒとヨハンが村から姿を消してしまってから、三十年近い月日が立つ。(その間にフリイドリッヒの母親も死に、村の人々もすっかり変ってしまうが、猶太人がその下で殺された※[#「木+無」、第3水準1−86−12]の木だけは昔のままに残っている。近在の猶太人等がそれを買いとって、その幹には呪詛《じゅそ》の詞《ことば》が銘せられてあった。)或る雪のクリスマスの夜、その村に一人の浮浪人がやって来る。それはヨハンのなれの果てらしかった。しばらく村の人達からいたわられて暮らしていたが、或る日、又ゆくえ知れずになってしまう。森のなかの例の※[#「木+無」、第3水準1−86−12]の木に彼が縊死体《いしたい》となって発見せられたのはそれから間もなくの事だった。彼は実はフリイドリッヒだったという噂が立ちはじめる。――その※[#「木+無」、第3水準1−86−12]の木に猶太人等の銘した次の詞がその物語の最後を結んでいる。――「此処に汝の近づく時は、嘗《かつ》て汝が我に為せし事を汝は汝自身に為さん。」
 漸《
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