口を衝《つ》いて出た。――|孤独の淋しさ《アインザアムカイト》とはちがう、が殆どそれと同種の、いわば|差し向いの淋しさ《ツワイザアムカイト》と云ったようなもの、そんなものだって此の人生にはあろうじゃあないか?
「そうだろう、ねえ、お前……」私は口の中でそんな事をつぶやくように言って見た。
「何あに?」と、ひょっとしたら妻が私に追いついて訊き返しはしないかしらと思った。しかし妻にはそれが聞えよう筈もなく、私の少しあとから黙ってついて来るだけだった。

    *

 夕方、食堂でまた例の外人の娘達と一しょになった。いつも同じように食堂へはいって来て、いつも同じように卓に向い、そして食事の間はいつも同じように言葉少なに話し合っている。向うでもこっちの事をそれと同じように考えているかも知れない。
 こんやはセロリが皿の上に姿を見せないと思ったら、スウプの中にはいっていやあがった。食事中、いつまでもその匂が口に残っていた。
 私達は二階の部屋へ、その外人の娘達はそのまま外へ出て往った。
 私はこんや中にはどうしても「猶太《ユダヤ》びとの※[#「木+無」、第3水準1−86−12]《ぶな》」を読《
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