人でぼそぼそと話し出しているようだ。それを好い機会に、私達は朝の食堂に下りて往った。

    *

 まだその娘達が姿を見せないうちに、朝の食堂を出て来た私達は、部屋へは帰らずに、そのままぶらっと散歩に出た。ともかくも雨の降り出さないうちに、まあ出来るだけでもその辺を見ておこうと思って、外人部落のきのう往かなかった方へ道をとった。湖岸まで下りて見ると、対岸の斑尾の方はなんとなく薄明るくて、青磁色の空さえところどころ覗いている。こりあうまく往くと、ときどき薄日ぐらいは差すような天気になって呉れるかも知れない。
 湖に沿った道をその部落のはずれまで往き切って、其処からこんどは落葉に埋まった急な坂を部落の方へ引っ返して往った。又、きのうと同様、すぐ面白いように人の家のなかへ踏み込んでしまう。ヴェランダ、鎧扉《よろいど》、木の段段、――どれもきのう見た奴と殆ど変りはない。なんだかきのうと同じ処を歩いているような感じだったが、ひょいと或る一軒の大きな別荘のなかへ迷い込んで、又引っ返そうとして、ふいと、その裏手の方を見ると、その裏木戸の上から白樺の木蔭になって「Green ……」という下手な横文
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