いた。しかしいかにも気立てのやさしい、つつましそうな様子をしていた。そして一日中、英吉利語を勉強していた。
そういう姉の影響が、お前が年頃になるにつれて、突然、それまでの兄たちの影響と入れ代ったのであろうか? それにしてもお前が、何かにつけて、私を避けようとするように見えるのは何故なのだ? それが私には分らない。ひょっとしたら、あの姉がひそかに私のことを思ってでもいて、そしてそれをお前が知っていて、お前が自ら犠牲になろうとしているのではないのかしら? そんなことまで考えて、私はふと、お前の姉と二三度やりとりした手紙のことを、顔を赧らめながら、思い出す……
お前たちが教会にいると、よく村の若者どもが通りすがりに口ぎたなく罵《ののし》って行くといっては、お前たちが厭《いや》がっていた。
或る日曜日、お前たちが讃美歌《さんびか》の練習をしている間、私はお前の兄たちと、その教会の隅っこに隠れながら、バットをめいめい手にして、その村の悪者どもを待伏せていた。彼等は何も知らずに、何時《いつ》ものように、白い歯をむき出しながら、お前たちをからかいに来た。お前の兄たちがだしぬけに窓をあけて、恐ろ
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