た。
私はお前の家族たちと一しょに帰った。汽車の中には、避暑地がえりの真っ黒な顔をした少女たちが、何人も乗っていた。お前はその少女たちの一人一人と色の黒さを比較した。そうしてお前が誰よりも一番色が黒いので、お前は得意そうだった。私は少しがっかりした。だが、お前がちょっと斜めに冠《かぶ》っている、赤いさくらんぼの飾りのついたお前の麦藁《むぎわら》帽子は、お前のそんな黒いあどけない顔に、大層よく似合っていた。だから、私はそのことをそんなに悲しみはしなかった。もしも汽車の中の私がいかにも悲しそうな様子に見えたと云うなら、それは私が自分の宿題の最後の方がすこし不出来なことを考えているせいだったのだ。私はふと、この次ぎの駅に着いたら、サンドウィッチでも買おうかと、お前の母がお前の兄たちに相談しているのを聞いた。私はかなり神経質になっていた。そして自分だけがそれからのけ者にされはしないかと心配した。その次ぎの駅に着くと、私は真先きにプラットフォムに飛び下りて、一人でサンドウィッチを沢山買って来た。そして私はそれをお前たちに分けてやった。
※[#アステリズム、1−12−94]
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