tがりながら飛んでいるようにも見える。それはまたその木にそんな色をした無数の小さな花が咲いていてそれが微風に揺られながら太陽に反射しているのかとも思える。なんだか私にはよく分らないけれども私はそれにうっとりと見入っている。――この何んの木だか分らないが、いつも同じ木は、私の夢の中に、そう――少くとももう七遍ぐらいは出て来ている。だからそう珍らしくはない筈《はず》だが、それでも不思議に私はその度毎《たびごと》に、いつも最初にそれを見た時のような驚きをもって、わくわくしながらそれに見入るのだ。
 突然、夢の場面が一変する。――が、それは場面が連続的に移動するのではない。それは不連続的に移動する。つまり、二つの場面の間にはぽかんと大きな間隙《かんげき》が出来てしまっている。目が覚めてから、夢がどうも辻褄《つじつま》が合わなく見えるのは、その間隙の所為《せい》が多い。私はその間隙を何かで充填《じゅうてん》しようと努力してみることがあるが、どうもそれがうまく行かない。私は此処《ここ》でもそれをその間隙のままにしておくよりしかたがない。(唯、こういう具合にだけは二つの場面は連続している。私はその何
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