チている隙《すき》を窺《うかが》って体を伸し
その壜をひったくる そうして急いでその部屋から逃げ出しかける
惶《あわ》てて飛んできた魔女が私からその壜を取り戻そうとして
私に武者ぶり着く 私は魔女と格闘をする
そして其奴《そいつ》をそこに打《ぶ》っ倒す しかし其奴は今度は私の足にしがみついて
踏んでも蹴《け》ってもそれを離さない
私はとうとう奪い去るのは諦《あきら》めて
その壜の口を抜き、がぶがぶそれを立飲みし出す
私は見る見るそれを飲み干して行く それは何ともかんとも云えないほど好い味がする
おお、私は無類の酒を飲んでいる! 一人の少女を飲んでいる!
[#ここで字下げ終わり]
若しも私があの夜ホテル・エソワイアンの廊下であの bizarre な少女に出会った時、この夢のなかの私の大胆さの半分でもあったら!……ああ、私は現実では何んと夢のなかでのように大胆にはなれないのだ。しかし私が我知らずそんなに大胆になれるような機会を与えてくれないのは、ひとつは現実にも責任はある。現実のトリックは夢のトリックよりもずっと下手糞《へたくそ》だ。夢は私のために一人の少女をあっさりと葡萄酒に変えてく
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