oしたのである
それを聞くと、老婆はしぶしぶながら私を部屋の中へ入れてくれた
その部屋の中には古い穴だらけの卓《テエブル》が一つあるきりだった
私はその前に坐りながら部屋の中を見廻した
さっきの少女の姿は何処《どこ》にも見えない 念のために卓の下を覗《のぞ》いたが矢張り居ない
「確かにこの部屋へ這入った筈《はず》だが……」と思いながら
向うの低い竃《かまど》の上に掛けてある大きな鍋《なべ》の中を
何やら厭《いや》らしく掻《か》き廻している老婆の後姿を見ているうちに
この婆《ばばあ》は魔法使いかも知れんぞと私は疑い出した
何処かへあの可愛らしい少女を隠してしまやがった
ことによるとあの少女を何かに変形させてしまったのかも知れないぞ
としたら一体それはどれかしらん? と私はきょときょと部屋を見廻している
その時老婆が鍋の中から何やらを皿に移して運んで来た
罅《ひび》の入った皿の上に鶏の足らしい骨がちょこんと載っているきりだ
「ちぇっ、こんなものを食わせやあがるのか?」と仏頂面《ぶっちょうづら》をしていると
老婆はにやにや笑いながらソオスの壜《びん》を持ってきて
それを私の皿にぶっかけるのだ
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