。そうしてまだ生ま生ましいような皮がいくつももう板に拡げて張りつけられてあるのが見え、皮を剥《は》がされた肉の塊りが道ばたまでころがり出していた。
「こいつはかなわないや。一番の苦が手だ。もう一ぺん駅までひっかえして、訊《き》いてみよう。」
 僕はさっさとそっちへ背を向けて、もう泥濘の中だろうとなんだろうと構わずに、その街道を突っ切りだした。そのときひょいと目を上げると、ちょうど鼻のさきに小さな道標が立っている。それでみると右が板橋、左が三軒屋。両方とも約二|粁《キロ》位。――そうそう、板橋という部落はなんだか聞いたことがある。たしか、そこにはわびしい旅籠屋《はたごや》なんぞもあったはずだ。二粁ぐらいなら、思い切って往ってみようかと、M君と相談していると、――その板橋のほうへ通じている、片方は林で、もう一方は草原になった、真直な街道を、何処からどう抜け出したのか、さっきちらりと駅で見かけた猟師が二人、大きな猟犬を先立てながら、さっさと歩いてゆくのが見える。
「往こう。」と僕は言った。
「ええ。」M君もそれにすぐ応じた。
 僕たちはその猟師たちのあとを追うようにしてその街道を歩き出した。
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