てきた飛鳥の村々にしたって、この前君と同道していなかったら、きょうのようには好い収穫を得られなかったのではないかと思います。もし僕ひとりきりだったら、僕はただぼんやりと飛鳥川だの、そのあたりの山や丘や森や、そのうえに拡がった気もちのいい青空だのを眺めながら、愉《たの》しい放浪児のように歩きまわっていただけだったでしょう。――が、君に引っぱってゆかれる儘《まま》、僕はそんなものをついぞ見ようとも思わなかった古墳だの、廃寺のあとに残っている礎石だのを、初夏の日ざしを一ぱいに浴びながら見てまわったりしました。そのときはあんまり引っぱりまわされたので少し不平な位でした。しかし、どうもいまになって考えて見ると、そのとき君のあとにくっついて何気なく見たりしていたもののうちには、その後何かと思い出されて、いろいろ僕に役立ったものも少くはないようです。あの菖蒲池古墳《あやめいけこふん》のごときは、君のおかげで僕の知った古墳ですが、あれなどはもっとも忘れがたいもののひとつでありましょう。
 そうです、そのときはまず畝傍山の松林の中を歩きまわり、久米寺《くめでら》に出、それから軽《かる》や五条野などの古び
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