ょうど古代の人々がふいとした思いつきで埴輪《はにわ》をつくりあげたような気もちで、書いてやろうとおもって、古代の研究がてら、大和にやってきて、毎日寺々を見て歩いているうちに、なんだか日にまし気もちが重くるしくなって、とうとう或る夕方、もうその仕事をどう云ってやってことわろうかと考えるため散歩にいった高畑のあたりの築土《ついじ》のくずれが妙にそのときの自分の気もちにぴったりして、それから急に思いついて「曠野《あらの》」という中世風なものがなしい物語を書いた。
 主 あの小説は読んだよ。大和までわざわざ仕事をしにきて、毎日お寺まわりしながら、やっぱり、ああいうものを書いているなんて、いかにも君らしいとおもったよ。
 客 あれは、いまおもえば、僕のさびしい詮《あきら》めだった。それが何処かで、あの物語の女のさびしい気もちと触れあっていたのだな……
 主 そういえばそうもいえようが、あれもあれでいい。だが、僕は君の新らしい仕事を期待している。勇気を出して、いつまでもその仕事をつづけてくれたまえ。
 客 うん、ありがとう。ひとつ一生をかけてもやるかな。……それまでのうちに、これから何遍ぐらいこっ
前へ 次へ
全127ページ中122ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング