その後はかどっているのかい。何か、大和のことを書くとかいっていたが……
客 いや、あれはあのままだ。なかなか手がかりがつかないんだ。まあ、そのうち何んとかものにするよ。……なんしろ、まだ、こういった感じのものが書きたいと、埴輪《はにわ》をいじったり、万葉の歌を拾い読みしたりしては一種の雰囲気を自分のまわりに漂わせて、ひとりでいい気になっているぐらいのものだ。
……当分はまあ折を見ては、こうやってこちらに来て、できるだけ屡々《しばしば》みごとな田園と化した都址《みやこあと》や、西の京あたりの松林のなかなどをぶらぶらするようにしている。
主 そうやって君は何げなさそうにぶらぶらしながら、突然、松林の奥から古代の風景が君の前にひらけるような瞬間を待っているわけなのだね。
客 そうだよ。少くとも、はじめのうちはそうだった。だが、このごろはそういった奇蹟は詮《あきら》めている。まだ、自分には古代の研究がなにひとつ身についていないのだからね。もうすこしおとなしく勉強をする。
主 だが、こんなことを僕から君に云うのもどうかと思うけれど、小説を書く気なら、あんまり勉強しすぎてしまってもいけない
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