心の仕事を
或未知の友への手紙
堀辰雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)過《よ》ぎつて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#二の字点、1−2−22]
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 御手紙拜見しました。
 ドゥイノの悲歌に就いての御質問の事、只今生憎手許に充分本がありませんので、御滿足の行くやうには御返事が出來かねますが、――第十の悲歌のあの冒頭の部分は、此の最後の悲歌の主題として考へられる、悲しみを過《よ》ぎつて本當の生に到達する「道」の探究へと我々を導いてゆくために、先づ、我々、地上の愛に充ちた者らにおける悲しみの位置といつたものをはつきりとさせてゐるのであります。
 本當の人生への道は悲しみを過《よ》ぎりながら通つてゐる。その悲しみを浪費したり、その果てるのを欲したりしてはならない。そしてそれを大事にしなければならない。何故なら、すべてのものが死んで、我々が無限の生の新しい季節にはひつてゆくとき、我々に殘されるのはその悲しみだけだからである。現世ばかりでなく、さ
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