つてゐるのを知つてゐるピストルをいぢつてゐる。彼には自殺したい欲望も考へもない。しかし彼は何かしら快感をおぼえつつその武器を握つてゐる。彼の掌が銃尾に結ばれる。彼の食指が引金にひつかけられる、一種のよろこびをもつて。彼は行爲を想像する。彼はだんだん武器の奴隷になりはじめる。武器はその所有者を誘惑する[#「誘惑する」に傍点]。彼はぼんやりと自分の方へ銃口を向ける。彼はそれを自分の顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]に、自分の齒に近づける。あゝ危いかな? 何故ならば人間機能の觀念が、肉體によつて下準備され、精神によつて完成されるところの行爲の壓力が、彼を裏切るからである。壓力の循環が完了せんとする。神經組織はそれ自身充填されたピストルになる。そして指は突然しまらんとする[#「しまらんとする」に傍点]のだ。……」
※[#アステリズム、1−12−94]
以上のところで僕の抄は終つてゐる。これからもつとあとがあつたのやら、ないのやら、僕ほもうすつかり忘れてしまつてゐる。佐藤朔君にでも今度會つたら、それを調べて置いて貰はう。
テスト氏と云へば、僕はこの間本郷の古本
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