@かくのごとく一人間の手の屆かない個所の惡化は一切のものを壞滅せしめるに至る。絶望せるものはぼんやりと行爲す[#「ぼんやりと行爲す」に傍点]べく誘はれる。或は強ひられる。
 その自殺は「不手際な解決」である。
 それ許りではない。人間の歴史は不手際な解決のコレクションである。我々のあらゆる意見、我々の判斷の大部分、我々の行爲の最多數は、單なる窮策にすぎない。
 第二種の自殺は、無限の陰鬱なる悲哀に、苦惱に、不吉な、そして特に祕されてゐた形象《イマアジュ》による眩暈に、なんらの抵抗もなし得ない人々の不可避的な行爲である。
 かかる種類の人々は、「死滅する」といふ一般的な意見或は觀念《イデエ》に對して感じ易[#「感じ易」に傍点]くなつてゐるやうに見受けられる。彼等は中毒者に比較すべきだ。死を追求する彼等の中に、藥品を搜す中毒者のところに認められるのと同じ根氣よさ、同じ不安、同じ詭計、同じ佯りを我々は觀察する。
 或者は積極的に死を欲しないが、一種の本能の滿足を欲するのだ。屡※[#二の字点、1−2−22]と彼等を魅するのは死の方法《ジアンル》そのものである。首をくくらうと思ふものは、決して川
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