フ化の偶然に委ねたくないのである。彼等は老衰を、失格を、出來事を嫌惡する。我々は古人の中にさういふ人間離れした決斷のいくつかの實例といくつかの讚美とを見出す。
境遇によつて強ひられた自殺(私が第一に述べたところのもの)に關しては、その考へがその當人に抱懷されるにいたるのは、丁度或る一定の計畫どほりになるべき行爲のやうにだ。それは或る災惡を確實[#「確實」に傍点]に根絶せんとする無氣力[#「無氣力」に傍点]から生ずる。あらゆるものを除去してしまふといふ迂路によつてしかその目的は達せられない。些事と現在とを除去するために全體と未來とを除去しようとする。あらゆる意識を除去しようとする。(さういふ一個の考へを除去し得ないから。)あらゆる感受性を除去しようとする。(さういふ手のつけやうのない、又絶えることのない、悲しみと絶縁し得ないから。)
ヘロデがすべての赤ん坊の首を斬らせたのは、その中の唯一人の死が彼には重要なのだが、その一人を見分け得なかつたからだ。ある男は、自分の家を荒らしてしやうがないが、どうしても捕らない鼠に夢中になつて、その鼠を追ひ出すことの出來ない建物全體を燃やしてしまふ。
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