凾フことだから、こんなことも平氣でするのかも知れないと思つた。それにしてもそのムシュウ・テスト[#「ムシュウ・テスト」に傍点]の自殺に就いての意見は僕には甚だ面白く思へた。そしてそれだけを有り合はせの書簡箋に心覺えに譯して置いたのであつた。いま手許に原文がないのでその僕の譯には調べ直したら間違ひがどの位澤山あるか分らないが、その頃の僕(一九二八、九年)をかたみする意味でそれを此處にそのまま載せて置かうと思ふ。

          ※[#アステリズム、1−12−94]

「自殺する人々。ある者等は自己に克つ[#「自己に克つ」に傍点]。他の者等は、反對に、自己に負け[#「自己に負け」に傍点]て、彼等の運命曲線(私はそれがどういふものであるか知らぬが)に從ふがごとくに見える。
 前者は境遇によつで強ひられるのだ。後者は彼等の性質によるのだ。そして運命の上面《うはべ》の好意は彼等が一番の近道を通ることを妨げない。
 自殺の第三の種類として次のものが考へられる。ある種の人々は人生を非常に冷靜に考へる、そして非常に絶對的な、非常に野望的な考へをもつ、そのために彼等は彼等の死の處分を出來事や有機的
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