或る人々には彼等の精神的類似を目立たせるのだ。
 九鬼はこの少年を非常に好きだったらしい。それがこの少年をして彼の弱点を速かに理解させたのであろう。九鬼は自分の気弱さを世間に見せまいとしてそれを独特な皮肉でなければ現わすまいとした人だった。九鬼はそれになかば成功したと言っていい。だが、彼自身の心の中に隠すことが出来れば出来るほど、その気弱さは彼にはますます堪え難いものになって行った。扁理はそういう不幸を目の前に見ていた。そして九鬼と同じような気弱さを持っていた扁理は、そこで彼とは反対に、そういう気弱さを出来るだけ自分の表面に持ち出そうとしていた。彼がそれにどれだけ成功するかは、これからの問題だが。――

 九鬼の突然の死は、勿論、この青年の心をめちゃくちゃにさせた。しかし、九鬼の不自然な死をも彼には極めて自然に思わせるような残酷な方法で。


 九鬼の死後、扁理はその遺族のものから頼まれて彼の蔵書の整理をしだした。
 毎日、黴臭《かびくさ》い書庫の中にはいったきり、彼は根気よくその仕事をしていた。この仕事は彼の悲しみに気に入っているようだった。
 或る日、彼は一冊の古びた洋書の間に、何
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