かり夢中でね。……それでも、五六人、どうやらお弟子《でし》が出来たのさ。」
「そうだそうですね。」
「でも、おかしいんだよ。……そのお師匠さんがさ、お弟子のことを一々私に話すんだがね。……どうもこの娘は器量はいいがすこしお転婆《てんば》のようだとか。……性質はよさそうだけれど、すこし器量がよくなくってとか。……何のことはない、まるで弘ちゃんのお嫁さん捜しをしているようなもんだからね。」
「ふ、ふ、今からそんな心配をされてた日にゃ、弘ちゃんもやりきれないわね。」
「姉さんたら、本当にそんな心配ばかりしているんだよ。……面白いったらありぁしない。……あんなにおとなしい子だから、女にでも欺《だま》されて、清ちゃんみたいになりぁしないかってさ……」
「まさか。」
 お照は笑いながら何ということなしにちらりと顔を赧《あか》らめた。
「でもね、弘ちゃんがあそこで、ああして勉強している後姿を見ているとね、なんだか清ちゃんのことが思い出されてならないんだよ。……面《おも》うつりがするんだろうね。……だけど、そんなことを姉さんに言おうものなら、気にしそうだから、あたしゃ黙っているのさ。」
「あら、あたし
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