大きくしながら、足を投げ出した。そうしてくるりと横になった。と、その途端に、さっきからちっとも娘たちの騒ぎが聞えて来ないでいることに弘ははじめて気がついた。なんだかひっそりしている。何をしているんだろう、と弘はしばらくお照を忘れて、そっちの方へ気をとられていた。……
「お茶でも淹《い》れましょうか?」膝《ひざ》の上で何やら本を読み出していたお照が、ふいとその本から目を上げて、弘に言った。
「こっちへいらっしゃらない?」
「うん。」
弘はやっと渋々と起き上って、長火鉢のそばへ行った。そしてお照の反対の側にどかりと坐りながら、うしろの障子に背中をもたらせながら、立膝をしたまま、お照の顔をまぶしそうに見つめた。
「そんな風に人の顔を見るものじゃなくってよ。」
「だって、ずいぶん変な顔だもの。」
少年は、精いっぱいの皮肉を言ったつもりでいるらしい。そう言って、さも嘲《あざ》けるように笑っている。事実、顔の浅黒い娘が頸《くび》にだけ真白にお白粉《しろい》をつけているのが変てこだと思っているのである。
「まあ、ご挨拶《あいさつ》ね、……弘ちゃんにはかなわないわ。」
娘は目を伏せたまま、いまま
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