に掃除されている松の木の周《まわ》りや、鐘楼の中、墓地の間などを荒し廻っているところを寺の爺《じいや》にでも見つかろうものなら、私たちはたちまち追い出されてしまうのだった。疳癖《かんぺき》らしかった爺の一人なんぞは、手にしていた竹箒を私たちに投げつけることさえあった。だが、そうなると一層その寺の境内や墓地を荒すことが面白いことのように思われ、私たちは爺に見つかるのを恐れながら、それでも決してその中へ侵入することを止《や》めなかった。その寺には爺が二人いた。一人は正門の横で線香や樒《しきみ》などを売っており、もう一人はよく竹箒を手にして境内や墓地の中を掃除していた。私たちは彼|等《ら》を顔色から「赤鬼」「青鬼」と呼んでいた。
たしか秋の学期のはじまった最初の日だったと思う。学校の帰り途《みち》、五六人でその夏の思い出話などをしながら一しょに来ると、そのうちの一人が数日前に常泉寺の裏を抜ける、まだ誰も知らなかった抜け道をみつけたといって得意そうに話した。そこで私たちはすぐそのまま、一人の異議もなく、その抜け道を通ってみることにした。
そのころ常泉寺の裏手にあたって、小さな尼寺があった。
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