で、向うむきに佇んでいた。
「何か寂しそうだったな、あの人は……。」明はそう考えながら駅を出た。
「菜穂子さんでもどうかしたのではないかな? ひょっとすると病気かも知れない。この前見たときそんな気がした。それにしても、あの時はもっと取つき悪い人のように見えたが、案外好い人らしいな。何しろ、おれと来たら、何処か寂しそうなところのない人間は全然取つけないからなあ。……」
 明は自分の下宿に帰ると、咳の発作を怖れてすぐには服を脱ぎ換えようともしないで、西を向いた窓に腰かけた儘、事によると菜穂子さんは何処かずっと此の西の方にある、遠い場所で、自分なんぞの思い設けないような不為合《ふしあわ》せな暮らし方でもしているのではないかと考えながら、生れて初めてそちらへ目をやるように、夕焼けした空や黄ばんだ木々の梢などを眺めていた。空の色はそのうちに変り始めた。明はその色の変化を見ているうちに、急にたまらないほど悪寒を感じ出した。

 黒川圭介は、その時もまださっきと同じ考え事をしているような様子で、夕焼けした西空に向いながら、プラットフォームの端にぼんやりと突立っていた。彼はさっきからもう何台となく電車
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