慣だったので、それらの隙間《すきま》からは無数の細かい雪が突風そのものと一しょに吹き込んできて、そこら中に手あたり次第に汚点をつけながら、彼の病室の中をくるくると舞っていた。……彼はそっと眼だけを毛布のそとに出しながら夢心地《ゆめごこち》にそれを見入っていたが、やがてそれらの活溌《かっぱつ》に運動している微粒子の群はただ一様に白色のものばかりでなく、それらのなかには赤だの青だの黄だの紫だのがまじっていて、それらが全体として虹色《にじいろ》になって見えることに気がついた。その瞬間、彼はちょっと軽い眩暈《めまい》を感じはしたが、それでもなおその回転する虹に見入っていると、それがいつしか彼に子供の頃の或る記憶を喚《よ》び起させた。……
人が子供の彼のために幻燈を映してくれようとしている。彼は闇《やみ》の中をじっと見つめている。レンズがなかなか合わない。その間、たださまざまな色彩の塊《かたま》りがぼんやり白い布の上にさまよっているばかりである。けれども或る期待のために子供は胸を躍《おど》らせている。うっとりするような瞬間が過ぎる。やっとレンズが合い、絵がはっきり見えだす。そこには雪のなかに一
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