のうちの最も斬新な一つは、それは彼がその小説のなかに時間の經過する感じを與へようとしたためであることが解る。再びさつきのルタン紙上のインタアヴィユに戻るが、その中でかういふことを云つてゐる。
「汽車がうねりくねつた線路を走つてゐる間、或時は右に、或時は左に見える、あの小さな町の中にでもゐるやうに同じ人間が、まるで入れ代り立ち代り現はれてくる別々の人間であるかのやうに讀者に印象されるほどの、ひとつ人間のさまざまな姿は――その爲にのみ――時間の過ぎてゆく感じを與へるものだ。」
つまり、現實の中でも屡※[#二の字点、1−2−22]起ることであるが、いま自分の前にゐる一人の人間が、ちよつと時間が經ちさへすれは、それとはまるで異つた人間のやうに印象されてくることがある。それがわれわれには如何にも時間の過ぎつつあるといふことを感じさせる。――プルウストはさういふ「強い、ほとんど無意識的の印象」に目をつけて、それを彼の人物を描く方法に取り入れたのだ。例へば、「スワンの戀」のなかに描かれてゐるオデット・クレッシイだが、あれくらゐ時間の過ぎるにつれて刻々に變化する性格と容姿をもつた、少々妖精じみたとこ
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