mられます。そこにこそ藝術上の創造があるのであります。
クルチウスは更らに、これらの章句のリズムの素晴らしさを説明してゐますが、それは原文で味つていただくより仕方がありませんし、それは私などの持つてゐる語學力では、なかなかその妙味はわかりません。――しかし、プルウストが、どんなにさういふ章句のリズムに注意してゐたかは、彼の友人の一人が語つてゐる次ぎのやうな逸話によつても解りませう。
プルウストは、ある眞夜中に(それは彼が何時も友人を訪問する時間でしたが)もう寢てゐたその友人のところに訪ねて來ました。さうしてそんな遲い訪問をいかにも慇懃に言ひ譯をしながら、佛蘭西語で sans rigueur[#「sans rigueur」は斜体](嚴しくなく)といふのを伊太利語ではどういふか、その正確な發音法を教へて貰ひたいと頼みました。そこでその友人は即座に senza rigore[#「senza rigore」は斜体] と發音しました。するともう一度それを繰り返してくれと言ふので、今度はゆつくりと發音しますと、それをプルウストは、目をつぶりながら、聞いてゐたさうです。それから丁寧にお禮を云つて
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