僕の靴は靴で、その底が花だらけになつてゐた。
日曜日の晴れた朝、教會の前を通つたら、その前の廣場に僕の名前を知らない木が二三本あつてそれが花ざかりだつた。そしてその花がぽたりぽたりとひとりでに散つてゐる下で、村の子供たちのボオル遊びをやつてゐるのが、さう、繪ハガキさながらであつた。
しばらく僕は立止つてそれを見てゐたが、そのうち男の子の一人がするするとその木に登つた。すると木の下から他の子供が叫んだ。
「嗅いでみなア……いい匂がするぜ……」
木の上の子供は手をのばして、花を※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]りとつて、それを言はれたとほりに嗅いで見せた。
「ウエツ、臭《くせ》え……」
さう言つてその花を木の下の子供の方へ投げつけた。僕はその白い花がどんな匂がするのか知らないが、それがいかにも臭さうだつたので、その花を手にとつて見ようとはしなかつた。
僕は散歩の途中に見知らない花が咲いてゐると、一枝折つてきては宿屋の主人にその名前を訊くやうにしてゐたが、どれを見せても、宿屋の主人は「それもウツギの一種です」と言ふものだから、しまひには、可い加減のことばかり言ふのだらう
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