。鸚鵡は一そう喧《やか》ましく人真似《ひとまね》をしだした。かの女はときどきその鸚鵡を見るために脊なかを動かした。その度毎《たびごと》に彼はかの女の脊なかから彼の眼をそらした。
お嬢さんはその青年と鸚鵡とをかわるがわる相手にしながら絶えず喋舌《しゃべ》っていた。その声はどうかすると「ルウベンスの偽画」の声にそっくりになった。さっきこのお嬢さんの声を聞いて彼がびっくりしたのはそのせいであったのだ。
お嬢さんの相手の青年はその顔つきばかりではなしに、全体の上品な様子が去年の混血児たちとはすこぶる異《ちが》っていた。すべてがいかにもおっとりとして貴族的であった。そういう両者の対照の中に彼は何となくツルゲエネフの小説めいたものさえ感じたほどだった。この頃になってこのお嬢さんはやっとかの女の境涯を自覚しだしたのかも知れない。……そんなことをいい気になって空想していると、彼は彼自身までがうっかりその小説の中に引きずり込まれて行きそうで不安になった。
彼はもっとここに居てみようか、それとも出て行ってしまおうかと暫《しばら》く躊躇《ちゅうちょ》していた。鸚鵡は相変らず人間の声を真似していた。それ
前へ
次へ
全25ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング