なであろうかと、それからそれへと尽きせずお思いやりしていたが、「それにしても、あんなに気弱そうな御方をこのように決心させたのも、若《も》しかしたら殿がその女を御世話くださるような事にでもなりはしないかと思われなすったからかも知れない。そう思って入らしったとしたら、私なんぞのところへお寄こしになったって、殿はこの頃こちらへもあまりお見えにならないものを」などと、こうしていつまでも殿との仲を絶とうとしては絶たれずに中途半端な暮らし方をしている意気地のない自分の事が反省せられ、こう云う自分とも知らないで托《たく》せられて来るその少女までがかわいそうな気もしたが、それもいまさら詮ない事、一旦こうと契った上はもはや取り返すことは出来ないと思われるのだった。
この十九日が日が好いというので、道綱にその少女を迎えに往って貰うことにした。出来るだけ目立たぬようにと、只、網代車《あじろぐるま》の小ざっぱりとしたのを用意させて、それに馬に乗った男共を四人、下人を数人だけ附添にした。やがて道綱は、自分の車のうしろにこんどの仲人役の女房を載せて、出かけて往くことになった。
丁度皆の出かけようとしている所へ
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