かしい気のするものだった。私はそういう心もちに誘われるがまま、一人きりで端近くに出ては、雨にけぶった植込みなどをぼんやりと見入っていたりする事が多かった。まだ殿もお通いにならなかったような若い頃、よく自分がそうやっていたように……
そんな長雨のつづいている間の、すこし晴れて、どことなく薄月のさしているような晩だった。
きょうはひさしぶりの雨間に、さっきから頭の君が道綱のところに来ていられたようだったが、そのうち知らない間に一人でこちらへ入らしってしまわれた。そうしていつもの縁の端に坐られて、例の撫子の事、いつまでもこうして一人でいなければならぬ苦しさなんどを、何かと私にお訴えになり出した。「もうあとの三月《みつき》ばかりなど、すぐ立ってしまいましょう」私はいつもの冷やかな、突っ放すような調子で言った。
「それが反って中途半端で、この頃私にはますます苦しいのでございます」頭の君はそれには構わずに、自分の言おうとする事は押し切っても言ってしまわれようとするように言い続けられた。「御約束下さった日は、あともう三月と申せば、向うに見えて居るも同然なものではございますが、それでいてこのまま
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