ら仕舞いまで、それに思いがけない好意さえもちながら、黙って聞いていたが、漸《ようや》くそれを聞《き》き畢《おわ》り、こんどは自分が何か言わなければならない番になったけれど、やはり何んとしても私は「何を申そうにもまだ姫は大へん穉《おさな》いので、そう仰《おっし》ゃられるとまるで夢みたいな気がいたす程ですから――」とお答えしているより外はなかった。
 それは雨が乱れがちに降っている暮れがただった。あたり一めんを掩《おお》うように蛙の声が啼《な》き渡《わた》っていた。そのまま夜が更けてゆくようなので、さっきから庇の間に坐られたぎり、一向お帰りなさろうとする様子も見えない頭の君に向い、「こんなに蛙が啼いて、こうして奥の方にいる私どもでさえ何んだか心細い位ですのに。あなた様も早くお帰りになっては」と私は半ばいたわるように、半ばたしなめるように言った。
 頭の君の方では、そういう私の言葉をも反って身に沁むようにしていて、只「そういうお心細いような折こそ、どうぞこれからは私を頼りになすって戴きたいものです。そんなものなんぞ、私は少しもこわがりはいたしませんから――」と応《いら》えるばかりで、いつまで
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