にこんなところにこそ住いたいと年頃思っていたような住いであった。――其処へ移ってからなお二三日は、殿はまだそれをお知りになった様子もなかった。ようやく五六日立ってから、「どうしておれに知らせてくれなかったのだ」と御文を申《もう》し訣《わけ》のように寄こされた。「お知らせいたそうかとも思いましたが、こちらはあんまり片寄った処でございますので。本当に、せめてもう一度なりと、旧《もと》の処でお会いいたしとうございました」と私が気強くすっかりもう仲の絶えたようにして返事を差し上げると、殿の方でもお怒りになったかのように、「そうか、そんな不便な処ではおれには往かれそうもない」と言って寄こされたぎりだった。それからその儘《まま》、私達はとうとう仲が絶えた形になった。
 九月、十月とたち、早朝など蔀《しとみ》を上げて見出すと、川霧が一めんに立ちこめていて、山々は麓《ふもと》すら見えないようなこともあった。それほど寂しい、それほど佗《わび》しい住居に自分自身を見出すのが、私にはせめてもの気休めになった。その川を前にして果てしもなく拡がっている田の面には、ところどころに稲束《いなたば》が刈り干されていた
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