などと考え考え、そんな負けず嫌いな気もちを歌によんだりして、纔《わず》かに悶を遣《や》っていた。しかし、それを誰に見せようでもなく、私はそこいらの紙に書き散らしては、それがそのまま失せるもよいと思っていた。……
その二
もう一年余も披《ひら》かなかった此日記を取り出して、それにまだこう云う気もちではついぞこれまで向った事もないようにさえ見える、心のときめきを感じながら、いま、夜の更けるのも私は知らずにいる。自分にとって附けても附けなくとも好いようなものになりかかっていた此日記を、再びこんな切ない心もちで手にとる事があろうとは、夢にも思わなかった事である。
頭《かん》の君《きみ》がお立ち去りになって往かれたのは、もう余程前のことであろう。その跡、私はながいこと、灯をそむけたまま、薄暗いなかに、ひとり目をつむっていた。いつまでもそうしながら、自分でも何をとははっきりと分からないようなものを考えで追い続けていた。そしてその自分でもはっきりとは分からないもののために自分の心が切ないほど揺《ゆ》らいでいるのを、私もまた切なくそれを揺らぐがままにさせていた。……
暫くしてから、私は
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