がそこにまざまざと見られでもするかのように、大ぶ抜け落ちて、先きの方が削《そ》がれたようになってい、身丈には四寸ばかりも足りなかった。
そういう穉《いとけな》い少女を殿はつくづくと見入っていらっしったが、「可哀らしい子じゃないか。一体、誰の子なのだ?」とあらためて私の顔を見据えられた。
「本当にお可哀いとお思いなされます?」と私は言いながら、「では、お明かししてもよろしゅうございますけれど――」と静かにほほ笑んでいた。
殿はとうとうこらえ兼ねたように言われた。「早く教えてくれ」
「まあ、おうるさいこと」私は急にすげなさそうに言った。「まだお分かりになりませんの? あなたの御子様ではありませんか」
「何、おれの子だって?」殿は側で見ているのもお気の毒な位、おあわてなすった。「それはどういうのだ、何処のだ?」
私はしかし、相変らず、冷やかにほほ笑んでいるぎりだった。
「いつかお前に貰ってやらないかと言った、あの子か?」殿はそれを半ば御自分に向って問われるように問われた。
「さあ、その御子様かも知れませんが……」
殿は、そういう私には構わず、一層しげしげとその少女を見入られていた。「
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