とか、他人の悲劇への参加(けれどもそれ等の差し出がましい助言者にも、又ひややかな目撃者にもなりたくはない、ただその傍らにじっとしていて、それだけでもって不幸な人々への何かの力づけになっているような者になっていたい……)だとかの後に、そういうもっと静かな、もっと力と諦《あきら》めに充ちたモノローグに帰って行くかも知れませんが。
「風立ちぬ」を書き上げたあとで、一年ばかり山のなかに孤独に暮してから、ようやく他人の方へ目を向けるようになり、なにかそれに話しかけたいような欲望を感じながら、「かげろうの日記」を書いた一方、それと殆ど同時に私は一人の女性と結婚いたしましたが、それも私にとっては自分のそういうささやかな成長に役立たせたかったからにほかなりませんでした。
ジャック・シャルドンヌと言う仏蘭西《フランス》の作家がその恋愛論を述べた小さい本のなかで、「恋愛というものに対する自分の考えはいろいろに変化してきた。最初は、それは創造することなのだと考えた。それからそれは完全というものを好むことなのだと考えるようになった。が、最後にそれは反対に、一人の女性をあるがままに受け入れること、即ち何処から
前へ
次へ
全10ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング