省察
MEDITATIONES
神の存在、及び人間の霊魂と肉体との区別を論証する、第一哲学についての
DE PRIMA PHILOSOPHIA, IN QUIBUS DEI EXISTENTIA, ET ANIMAE HUMANAE A CORPORE DISTINCTIO, DEMONSTRANTUR.
デカルト Renati Descartes
三木清訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)惟《おも》う

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]
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神の存在、及び人間の霊魂と肉体との区別を
論証する、第一哲学についての省察
[#ここで字下げ終わり]


     書簡


   聖なるパリ神学部の
 いとも明識にしていとも高名なる
    学部長並びに博士諸賢に
        レナトゥス デス カルテス

 私をしてこの書物を諸賢に呈するに至らしめました理由は極めて正当なものでありますし、諸賢もまた、私の企ての動機を理解せられました場合、この書物を諸賢の保護のもとにおかれまするに極めて正当な理由を有せられるであろうと確信いたしますので、ここにこの書物を諸賢にいわば推薦いたしまするには、私がその中で追求しましたことを簡単に申し述べるにしくはないと考える次第であります。
 私はつねに、神についてと霊魂についてと、この二つの問題は、神学によってよりもむしろ哲学によって論証せられねばならぬ諸問題のうち主要なるものであると、思慮いたしました。と申しますのは、われわれ信ある者には、人間の霊魂の肉体と共に滅びざること、また神の存在したまうことは、信仰によって信ずることで十分でありますとはいえ、たしかに、信なき者には、まず彼等にこの二つのことが自然的理性によって証明せられるのでなければ、いかなる宗教も、またほとんどいかなる道徳上の徳すらも説得せられうるとは、思われないからであります。そしてこの世においてはしばしば徳よりも悖徳にいっそう大きな報酬が供せられるのでありますから、もし神を畏れず、また来世を期待しないならば、利よりも正を好む者は少数であるでありましょう。もとより、神の存在の信ずべきことは、聖書に教えられているところでありますから、まったく真でありますし、また逆に聖書の信ずべきことは、これを神から授けられたのでありますから、まったく真であります。まことに信仰は神の賜物でありまするゆえに、余のことがらを信ぜしめんがために聖寵を垂れたまうその神はまた、神の存在したまうことをば我々をして信ぜしめんがために聖寵を垂れ得たまうからであります。とはいえ、これはしかし、信仰なき人々に対しましては、彼等はこれを循環論であると判断いたすでありましょうから、持ち出すことができませぬ。そして実に私は、単に諸賢一同並びに他の神学者たちが神の存在は自然的理性によって証明せられ得ると確信いたされるということのみではなく、また聖書からも、神の認識は、被造物について我々が有する多くの認識よりもさらに容易であり、まったくその認識を有しない人々は咎むべきであるほど容易であることが推論せられるということに、気づきました。これはすなわちソロモンの智慧第十三章の言葉から明かでありまして、そこには、またそのゆえをもって彼等は宥すべからざらなり[#「またそのゆえをもって彼等は宥すべからざらなり」に傍点]、けだし彼等もしこの世のものを賞で得るほど知り得たりとせば[#「けだし彼等もしこの世のものを賞で得るほど知り得たりとせば」に傍点]、いかにしてその主なる神をさらに容易に見出さざりしぞ[#「いかにしてその主なる神をさらに容易に見出さざりしぞ」に傍点]、とあるのであります。またロマ書第一章には、彼等、弁解することを得ず[#「弁解することを得ず」に傍点]、と言われております。そしてまた同じ箇所にある、神に就きて知られたる事柄は彼等において顕わなり[#「神に就きて知られたる事柄は彼等において顕わなり」に傍点]、という言葉によりまして、神について知られ得る一切のことがらは、他の処においてではなく我々の精神そのものにおいて求めらるべき根拠によって、明白にし得るということが告げられていると思われるのであります。しからば、いかにして然るか、いかなる道によって神はこの世のものよりもさらに容易にさらに確実に認識せられるかを探究いたしますことは、私に無関係なことではないと考えた次第であります。
 また霊魂に関しましては、多くの人々はその本性は容易に究明せられ得ないと判断いたしており、そして或る者は人間的な
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