またクリスマス・ツリーの方へ行く、立ち止る)赤い花がいいこと! ですけれどね、あなた、あのクログスタットが惡いことをしたといふのは、大變怖ろしいことなのでしたか?
ヘルマー 私文書僞造といふだけだがね、それはどんなことか知つてるかい?
ノラ 何か止むを得ない事情で、そんなことをしたんでせうね?
ヘルマー さうか、またはよくある奴でほんの不注意からそんなことになつたのかも知れない。俺は何も、それ一つの過失《あやまち》で絶對に人に難癖をつけるほど、冷酷ぢやないんだがね。
ノラ でせう? 私だつてさう思ひますわ。
ヘルマー たゞ自分の罪を白状して、それだけの刑罰を受けちまへば、それですつかり道徳上正しい人間になることが出來るんだが。
ノラ 刑罰ですつて?
ヘルマー 所がクログスタットは白状といふことをしなかつた。彼奴は小細工やごまかしで逃れようとした。それが彼奴を腐敗させてしまつたんだ。
ノラ あなた、それでは――?
ヘルマー ま、考へてもご覽! 一度惡いことを承知でさういふことをした奴は、一生涯嘘をついて眞面目な顏をしてゐなくちやならない。何もかもごまかして生きて行く。彼奴は自分の妻子にま
前へ 次へ
全147ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
イプセン ヘンリック の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング