ヘルマー さうさな――
ノラ その書類は何のご用?
ヘルマー 銀行の用事だ。
ノラ もう?
ヘルマー 今度辭職する支配人と相談して少し役員の出し入れなんかさせて貰つたもんだからね。その方がクリスマス中かかるだらう。新年になるとすつかり片がつきさうだ。
ノラ ぢや、そのためですわ、可哀さうに、あのクログスタットが――
ヘルマー ふむ――
ノラ (尚、椅子の背の處によりかゝり、靜かに夫の髮の毛を掻きながら)貴方、餘り忙しくなかつたら本當にお願ひしたいことがあるんですけれどね。
ヘルマー 何だらう? いつてご覽。
ノラ 誰だつて、貴方ほど趣味の高い人はゐないんだから、私今度の假裝舞踏會には思ふ樣立派にして行きたいと思ふんですよ。で、貴方何ですか? 一緒にいらして私が何になればいゝか決めて衣裳を見立てゝ下さるわけにはいきませんか?
ヘルマー あはあ! 家の剛情屋さんが、途方にくれて悄《しよ》げ始めて來たね。
ノラ えゝ、どうかね。貴方がいらして下さらなくちやどうにもならないんですもの。
ヘルマー よし/\、考へてみよう、そのうち何か見《め》つかるさ。
ノラ まあよかつた。貴方親切ですわね! (
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